東京高等裁判所 平成7年(行ケ)218号 判決 1997年12月10日
オランダ国
ロッテルダム ヴェーナ 455
原告
ユニリーバー・ナーム ローゼ・ベンノート シャープ
代表者
ハー・デ・ローエイ
訴訟代理人弁理士
川口義雄
同
中村至
同
船山武
同
伏見直哉
同
針間一成
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
平田和男
同
後藤千恵子
同
小原英一
同
小川宗一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成2年審判第18688号事件について、平成7年3月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1987年2月27日にイギリス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和63年2月26日、名称を「布地柔軟化組成物」とする発明につき特許出願をした(特願昭63-44066号)が、平成2年6月28日に拒絶査定を受けたので、同年10月19日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成2年審判第18688号事件として審理したうえ、平成7年3月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年5月17日、原告に送達された。
2 特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨
(ⅰ) 水性ベースと、
(ⅱ) 8重量%以下の水不溶性の陽イオン型布地柔軟剤と、
(ⅲ) 少なくとも0.2重量%のC8~C24脂肪酸と、
(ⅳ) 非イオン型表面活性剤と、
からなり、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲であることを特徴とする液体布地柔軟化組成物。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願の優先権主張日前に外国において頒布された刊行物である1981年12月29日発行の米国特許第4308024号明細書(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載された発明であって、特許法29条1項3号の規定に該当するから、特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨の認定及び引用例の記載事項の認定は認める。本願発明と引用例発明との対比及び一致点の認定のうち、「引用例の組成物を構成する成分の組成比においても、本願の請求項1に係る発明の組成物と同じである。」(審決書7頁10~12行)とし、両者は、「陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲である液体布地柔軟化組成物であるという点で一致し」(同7頁20行~8頁3行)とする点は争い、その余は認める。
本願発明の引用例発明に対する選択発明的効果の有無に関する判断(同8頁6行~9頁4行)は争う。
審決は、引用例発明の技術内容を誤認して本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、本願発明の顕著な作用効果を看過して引用例発明に対する選択発明的効果の有無の判断を誤り(取消事由2)、その結果、本願発明が引用例発明と同一との誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、「引用例に記載される実施例を見ると、水性ベースに、カチオン洗浄界面活性剤を8重量%以下、遊離のC8-C24のアルキル又はアルケニルモノカルボン酸を0.2重量%以上含有させた布柔軟化剤が示されていること、及び、本願の実施例3の記載を見ると、本願の非イオン表面活性剤の使用量は、多くの非イオン界面活性剤の場合、5重量%までの範囲で用いるものであること」(審決書7頁2~9行)から、「引用例の組成物を構成する成分の組成比においても、本願の請求項1に係る発明の組成物と同じである。」(同7頁10~12行)とし、引用例発明が、本願発明のすべての構成を備えるものと認定した。
確かに、引用例記載の非イオン界面活性剤を5重量%以下加えた場合における引用例組成物の陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が、客観的には、本願発明の「30:1~3:1の範囲」に含まれることは否定しない。
しかし、引用例(甲第3号証)には、非イオン型表面活性剤を「5%までの少量で」含有させる旨の記載(同号証抄訳5頁1~4行)はあるものの、この記載は、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比についての情報に結びつくところがない。
被告は、引用例の記載から、本願発明の陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比を算出できると主張するが、引用例記載の技術内容を認定する場合には、記載された事項に基づき特に思考を働かせずとも到達できる範囲に止めるべきである。
また、引用例には、非イオン性界面活性剤を含ませることがいかなる状況のときに必須となるかについての記載はなく、非イオン性界面活性剤を配合した実施例の記載もない。そうすると、引用例には、非イオン性界面活性剤を積極的に使用すべき動機付けがなく、まして、使用量の最適化により、後記のとおり、引用例に示唆のない効果を生ずることは引用例から予測しえないことである。そうであれば、引用例に、たまたま非イオン性界面活性剤を使用することが記載されていたからといって、本願発明の特徴とする「陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲である」とする技術思想は、何ら開示されていないし、示唆するところがないといわなければならない。
したがって、審決の一致点の認定は誤りである。
2 取消事由2(選択発明的効果の判断の誤り)
審決は、「非イオン型表面活性剤の種類によっては、請求人の主張する効果がない場合もあり、そうすると、本願の請求項1に係る発明の構成を採っても、必ず選択発明的な効果があるものでない」(審決書8頁19行~9頁3行)ことを理由に、本願発明が選択発明として進歩性があることを否定したが、誤りである。
(1) 引用例記載の5重量%までの非イオン性界面活性剤を任意成分として添加する場合のモル比が、本願発明の特徴とするモル比と重複するとしても、引用例には、<1>陽イオン型布地柔軟剤と脂肪酸と非イオン型表面活性剤とを含み、かつ陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲内である態様、<2>陽イオン型布地柔軟剤と脂肪酸と非イオン型表面活性剤とを含み、かつ陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲外である態様、<3>陽イオン型布地柔軟剤と脂肪酸は含むが、非イオン型表面活性剤は含まない態様の3通りが包括的に開示されているのに対し、本願発明は、この中から下位概念である<1>の態様のみを選択したことに相当する。そして、引用例には、実質的に<3>の態様についてのみ具体的開示があるのみであり、<1>の態様を選択した場合の特段の作用効果に関する記載もない。
本願発明は、<1>の態様を必須の構成要件としたことにより、冷凍/解凍サイクル後での物理的安定性という引用例に全く記載のない特段の作用効果を奏するものであり、その作用効果が、<2><3>の各態様と対比して、極めて顕著であることは、本願明細書の実施例の記載、特に、平成2年11月19日付け手続補正書(甲第2号証の2)の補正の内容(14)で追記したことにより明らかである。
すなわち、非イオン型表面活性剤が過少で、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が35:1となると、非イオン型表面活性剤の種類にもよるが、「固化」ないし「ボーダーライン」と評価されるに至る。これを実施例2のキャップ:ディスペンサ試験の結果を記載した表(甲第2号証の1第6頁左下欄、甲第2号証の2補正の内容(6))の2D等と比較すれば、その差は顕著である。一方、非イオン型表面活性剤が過多のときは、実施例3の同表(甲第2号証の1第7頁右上欄~左下欄、甲第2号証の2補正の内容(8))の3L、3Q、3V、3BB等にみられるように、「Sep」(相分離)となる。なお、この下限値は、非イオン型表面活性剤の種別等に応じて多少の変動がありうる関係で、高めに設定されている。モル比が無限大の場合に相当する前示<3>の態様については、実施例2及び4~6に対比されている。例えば、実施例4の同表(甲第2号証の1第8頁左上欄)の4Aの残留物%が38であるのに対し、非イオン型表面活性剤不添加の4Bは「ゲル」(残留物%100に相当)と際立った対照を示している。 したがって、本願発明は引用例発明に対する関係で選択発明に当ることは明白である。
(2) 審決が、上記「非イオン型表面活性剤の種類によっては、請求人の主張する効果がない場合もあり」(審決書8頁19~20行)と即断した根拠は、本願明細書の実施例2の同表(甲第2号証の1第6頁左下欄、甲第2号証の2補正の内容(6))のうちの、凍結/解凍サイクルの回数1回の場合の残留%の表示が、2D(非イオン型表面活性剤ドバノール45-18)につき85、2F(非イオン型表面活性剤ゲナポール0-050)につき83とされているのに対し、2L(非イオン型表面活性剤なし)については73とされている点である。確かに、この数値のみを見ると、非イオン型表面活性剤を添加しない2Lの場合が、これを添加した2D、2Fの場合よりも、試料の残留%が少なく表示されているから、粘度が低く物理的により安定しているかのように見える。
しかしながら、この2Lの73という数値は不適切であった。キャップ:ディスペンサ試験において、試料を入れたキャップを10秒間倒置したときに、試料がたとえ高粘度でも滑りやすい場合、塊のままキャップから落下して見掛け上の残留%の数値が低くなることがあることが判明した。この場合、倒置後10秒間に試料が落下するかどうか、落下する場合にどの程度の大きさの塊で落下するかは予測できず、判定しようとする物理的安定性の指標として適当でなかった。なお、これは試料が高粘度でも滑りやすい場合のみの現象で、粘度が中庸以下のもの、あるいは逆にキャップの壁に固着してしまうようなものについては問題がなく、簡便な実用的流動性評価手段であるキャップ:ディスペンサ試験が一般に不適当であるということを意味するものではない。
このように2Lの73という数値が不自然で、試料の物理的安定性を正確に反映していないことは、その数値が本願明細書の他の記載と明らかに整合していないことにより、十分推認が可能である。
すなわち、本願明細書の実施例1の1A(甲第2号証の1第5頁左下欄15~17行)及び実施例6の6B(同号証9頁左上欄)は、ともに2Lと成分組成が全く同一であるが、1回の凍結/解凍サイクル後の評価は、1Aが「僅かな流動性を有しているが連続流として注ぎ得ない」(同号証5頁右下欄15~16行)と、6Bが「僅かに流動性であるが連続流として注ぎ得ない」(同号証9頁右上欄3~4行)というものである。1A及び6Bではキャップ:ディスペンサ試験はなされていないが、同試験の性格から見て結果を対比するのに困難はなく、「僅かに流動性であるが連続流として注ぎ得ない」ものが、キャップ:ディスペンサ試験に付したときその27重量%に相当する塊が落下したものと考えられる。
また、前記の実施例2におけるキャップ:ディスペンサ試験の結果を記載した表を見ても、凍結/解凍サイクルの回数3回の場合の残留%の表示は、2Dにつき45、2Fにつき36されているのに対し、2Lについては68とされていて(甲第2号証の1第6頁左下欄、甲第2号証の2補正の内容(6))、2Lの結果は、2D、2Fに比べて残留量が多く、劣っている。
これらの点は2Lに係る凍結/解凍サイクルの回数1回の場合の残留%73という数値が不自然であることを示すものであるが、審決は、このような検討を怠り、この数値に信頼がおけないことを看過したものであって、その判断が誤りであることは明らかである。
仮に、1回の凍結/解凍サイクル後のキャップ:ディスペンサ試験のデータからは本願発明の選択発明的効果の認定ができないとしても、本願明細書に示された3回の凍結/解凍サイクル後のデータ(例えば、実施例2の2Dについての45)に基づけばその効果を認めることができる。
審決は、この点の検討を怠って、本願発明の作用効果を看過したもので、その判断は誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1について
引用例には、本願発明の布地柔軟化組成物の各成分を含む布柔軟化剤が記載されており、非イオン型表面活性剤については、任意成分としてではあるが、脂肪族アルコールのエチレンオキシド縮合物等の非イオン性界面活性剤を5%(5重量%)まで添加することが記載されている。
これに対し、本願明細書の実施例3のキャップ:ディスペンサ試験の結果を記載した表(甲第2号証の1第7頁右上欄~左下欄、甲第2号証の2補正の内容(8))のうち、本願発明のモル比の範囲に含まれる例(3B、3C、3D、3G、3H、3M、3N、3O、3R、3S、3T、3W、3X、3Y、3Z、3AA)をみると、その非イオン型表面活性剤の添加量は、0.1~4.0重量%の範囲に含まれており、これらはすべて、本件特定記載の5重量%までという範囲に含まれるものである。
一方、水不溶性の陽イオン型布地柔軟剤についてみると、本願明細書及び引用例ともに実施例で二硬化タロージメチルアンモニウムクロライドを用いられることが記載され、その添加量については、本願明細書の実施例では3.6重量%及び5重量%であることが具体的に記載され、引用例の実施例1-10においては2.64~4.98重量%の範囲で様々な添加量の例が具体的に記載されている。
そうすると、本願発明と引用例発明における各陽イオン型布地柔軟剤及び各非イオン型表面活性剤とは差異がなく、その添加量も重なっているのであるから、本願発明と引用例発明とは、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比においても重なることは明らかである。
また、引用例には、陽イオン型布地柔軟剤の種類と成分量は具体的に記載されており、非イオン型表面活性剤については、当業者であれば、布地柔軟化組成物に配合することが知られたものの中から適宜選択して使用することができるから、そのようにして定まった非イオン型表面活性剤の種類と引用例記載の陽イオン型布地柔軟剤の種類より、そのモル比も求めることができ、これにより、算出した例によれば、そのモル比が、本願発明の規定するモル比の範囲内にあることは明らかである。
2 取消事由2について
(1) 本願明細書には、原告の挙示する実施例1の1Aについて、1回の凍結/解凍サイクル後だけでなく、3回及び6回の各凍結/解凍サイクル後の評価も「僅かな流動性を有しているが連続流として注ぎ得ないものであった」(甲第2号証の1第5頁右下欄15~17行)と記載されている。他方、実施例2のキャップ:ディスペンサ試験の結果を記載した表(甲第2号証の1第6頁左下欄、甲第2号証の2補正の内容(6))のうち、2Lに係る凍結/解凍サイクルの回数3回の場合の残留%は68であるから、本願明細書においては、キャップ:ディスペンサ試験の残留%が70%前後のものを、定性的には「僅かな流動性を有しているが連続流として注ぎ得ない」と表現しているものと理解される。そうすると、2Lにおいて凍結/解凍サイクルの回数1回の場合のキャップ:ディスペンサ試験による残留%が73であるとする記載と、上記1A及び実施例6の6B(甲第2号証の1第9頁左上欄)における1回の凍結/解凍サイクル後の評価を「僅かに流動性であるが連続流として注ぎ得ない」とする記載とが整合していないということはできない。
また、本願明細書の実施例3のキャップ:ディスペンサ試験の結果を記載した表(甲第2号証の1第7頁右上欄~左下欄、甲第2号証の2補正の内容(8))のうち、3WのノニデットLE6Tに係る1回の凍結/解凍サイクル後の残留%は100とされており、このことは、本願発明において規定のモル比の範囲内で非イオン型表面活性剤を用いたとしても、非イオン型表面活性剤を用いない場合に比べ、効果が劣る場合があることを示し、あるいは、少なくともキャップ:ディスペンサ試験では非イオン型表面活性剤を用いる効果を明らかにすることができないことを示すものである。
なお、原告主張のように、キャップ:ディスペンサ試験が再現性の点で問題があることは頷けるところであるが、そうであるとすれば、本願明細書に記載された実施例2の2L以外のデータであっても、残留量が多く高粘度のもののデータは信頼性が低いといわなければならず、そのようなデータから発明の効果を認めることはそもそも無理というべきである。
(2) 原告は、本願明細書に示された3回の凍結/解凍サイクル後のデータに基づけば本願発明の効果を認めることができると主張するが、本願明細書において、各種の非イオン型表面活性剤についてそれぞれその添加量を変えた場合の(したがって、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比を変えた場合の)データが示されているのは実施例3だけであり、その実施例3においては1回の凍結/解凍サイクル後のキャップ:ディスペンサ試験のデータが示されているだけであるから、本願発明が規定する陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1という範囲にわたって、原告主張の凍結/解凍サイクルの後にも物理的に安定であるという効果を奏することは、当業者が容易に理解できるものではない。
(3) したがって、審決が、「本願の請求項1に係る発明の構成を採っても、必ず選択発明的な効果があるものではない」(審決書9頁1~3行)としたことに誤りはない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 本願発明と引用例発明とを対比すると、審決認定のとおり、「引用例において、カチオン洗浄界面活性剤は、・・・本願の陽イオン型布地柔軟剤と同じであり、遊離のC8-C24のアルキル又はアルケニルモノカルボン酸は、本願の脂肪酸と同じであり、・・・非イオン界面活性剤も、本願の非イオン表面活性剤と同じである。」(審決書6頁12行~7頁1行)ことは、当事者間に争いがなく、引用例発明において、非イオン型表面活性剤を5重量%以下加えた場合における陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が、客観的には、本願発明において規定するモル比30:1~3:1の範囲と重複することは、原告も認めるところである。
原告は、引用例(甲第3号証)には、非イオン型表面活性剤を「5%までの少量で」含有させる旨の記載(同号証抄訳5頁3~4行)はあるものの、この記載は、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比についての情報に結びつくところがないと主張する。
しかし、本願発明を構成する陽イオン型布地柔軟剤及び非イオン型表面活性剤の種類及び成分量が、引用例発明を構成する陽イオン型布地柔軟剤及び非イオン型表面活性剤の種類及び成分量に重なれば、その範囲でモル比も重なるものということはもとより、布地柔軟化組成物を構成する具体的な陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤の種類(分子量)と各成分量とが定まれば、そのモル比を算出しうることは、当業者にとって技術常識に基づき容易にできることであり、本願明細書(甲第2号証の1、2)及び引用例(甲第3号証)には、これらモル比を算出するに必要な具体的な陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤の種類(分子量)と各成分量とが開示されていることが認められる。現に、原告も、本願明細書と引用例の記載から、前示のとおり、本願発明と引用例発明における陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比を算出し、引用例発明の同モル比が30:1~3:1の範囲と重なることを認めているのである。
したがって、引用例には、本願発明の組成物が実質的に開示されているということができる。
(2) 原告は、引用例には、非イオン性界面活性剤を含ませることがいかなる状況のときに必須となるかについての記載はなく、非イオン性界面活性剤を配合した実施例の記載もないと主張する。
しかし、引用例(甲第3号証)には、その非イオン型表面活性剤の添加につき、「本発明組成物はさらにこのような組成物に通常用いられる普通の補助剤を含有することもできる。その例としては・・・エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドと脂肪族アルコールや脂肪酸の縮合物、グリセリンモノステアレート等脂肪酸と多価アルコールとのエステル、エトキシル化ソルビタンエステル等の非イオン性界面活性剤(5%までの少量で)、・・・等が挙げられる。」(同号証抄訳4頁下から2行~5頁5行)と記載されており、布地柔軟化組成物に非イオン性界面活性剤等の補助剤を添加することが当業者に周知慣用の手段であり、その添加により周知の補助的効果を奏することを前提として、引用例の特許請求の範囲記載の布地柔軟化組成物に、当該補助的効果を付与するための任意的構成として記載されたものであると認めることができ、しかも、補助剤のうち非イオン性界面活性剤に関しては、これに適する化合物が記載され、添加量の限定もされているのであるから、引用例記載の非イオン性界面活性剤の添加が偶々記載された事項であって、何らの技術的意義付けもないような場合に当らないことは明白である。
そうであれば、引用例に、非イオン性界面活性剤添加の具体的な効果やこれを用いる場合の実施例の記載がないとしても、その構成が引用例発明に重なることになる本願発明が引用例に実質的に記載されているというべきである。
したがって、本願発明と引用例発明との一致点の認定に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は失当である。
2 取消事由2(選択発明的効果の判断の誤り)について
(1) 本願発明が引用例発明に対し選択発明であるというためには、本願発明が、引用例に規定された上位概念に包含される下位概念であって、引用例に具体的に示されていないものを構成要件として採用したという関係にあるものでなくてはならない。
この点について検討すると、引用例には、審決認定のとおり、「相対的に水不溶性であり2つのC12-C22のアルキル又はアルケニル基を持つカチオン洗浄界面活性剤を20~95モル%と、遊離のC8-C24のアルキル又はアルケニルモノカルボン酸5~80モル%を含有する水性の液体から本質的になり、該カチオン洗浄界面活性剤と該アルキル又はアルケニルモノカルボン酸の合計した量は水性の液体の2~20重量%であり、pHが5以下の布柔軟化剤が実施例とともに記載され」(審決書5頁8~17行)、また、前示のとおり、「本発明組成物はさらにこのような組成物に通常用いられる普通の補助剤を含有することもできる。その例としては・・・エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドと脂肪族アルコールや脂肪酸の縮合物、グリセリンモノステアレート等脂肪酸と多価アルコールとのエステル、エトキシル化ソルビタンエステル等の非イオン性界面活性剤(5%までの少量で)、・・・等が挙げられる。」(甲第3号証抄訳4頁下から2行~5頁5行)として、補助剤として非イオン性界面活性剤の使用ができること、その非イオン性界面活性剤として使用できる具体的化合物及びその成分量が記載されている。引用例には、この非イオン性界面活性剤の添加についての作用効果が特段に記載されていないが、それは、前示のとおり、布地柔軟化組成物に非イオン性界面活性剤等の補助剤を添加すること及びその効果が当業者に周知慣用のものであることを前提としているからであるということができる。
そうすると、引用例には、陽イオン型布地柔軟剤と脂肪酸は含むが、非イオン性界面活性剤は含まない態様とともに、陽イオン型布地柔軟剤と脂肪酸とともに、非イオン性界面活性剤とを含む態様が具体的に記載されており、また、この後者のうち、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン性界面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲と重なる態様も、前示のとおり、当業者にとって理解できるものとして、引用例に開示されているというべきであるから、本願発明は、引用例に具体的に記載された実施態様の1つの場合に当たることは明らかであり、これをもって、引用例発明の構成要件として規定された総括的な上位概念に包含される下位概念であって引用例に具体的に示されていないものを構成要件として採用したということはできない。したがって、本願発明は、引用例発明との関係において選択発明に当たるとすることはできないものといわなければならない。
(2) また、仮に選択発明の関係にあるものとして、本願発明が引用例に示されていない顕著な効果を奏するというためには、引用例発明との関係で本願発明の規定する陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1という数値限定が、顕著な効果を奏するにつき臨界的意義を有するものであることが必要である。
本願明細書(甲第2号証の1、2)には、この点に関連して、「今回、陽イオン型布地柔軟剤と脂肪酸とを含有する組成物に非イオン型表面活性剤を添加すれば、さらにアルコールを添加しなくとも1回もしくは複数回の凍結/解凍サイクルの後にも安定である組成物が得られることを知見した。」(甲第2号証の1第2頁左下欄13行~右下欄1行)、「非イオン型表面活性剤の好ましい、量は0.1~4.5重量%の範囲、特に0.15~3重量%の範囲である。陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比は約30:1~3:1の範囲である。この範囲内であるなら、その組成物は、必ず、凍結/解凍サイクルの後も安定であり、本発明の目的を達成できる。より好ましくは、その比は18:1~3:1である。」(甲第2号証の1第4頁左下欄1~5行、甲第2号証の2補正の内容(3))との各記載がある。
そこで、本願明細書記載の各実施例をみると、実施例2(甲第2号証の1第6頁左上欄6行~右下欄7行、甲第2号証の2補正の内容(6)、(7))及び実施例3(甲第2号証の1第6頁右下欄14行~7頁右下欄4行、甲第2号証の2補正の内容(8)、(9))が、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比を、30:1~3:1の数値限定の範囲外となる例を含め、様々に変えた場合の効果を比較したものであることが認められる。
実施例2は、陽イオン型布地柔軟剤(アルクワッド2HT、すなわち二硬化タロージメチルアンモニウムクロライド)及び脂肪酸(ブリステレン4916)に、各種非イオン型表面活性剤を加えた組成物(2A~2K、2Lは非イオン型表面活性剤を含まない比較例)を対象として、凍結/解凍のサイクルが1回の場合と3回の場合のそれぞれにつき、キャップ:ディスペンサ試験を実施して、その残留%を比較したものであり、2E(非イオン型表面活性剤がエトカス35、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が39:1)及び2L(非イオン型表面活性剤を含まない。)の2例が、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の数値限定の範囲外であるところ、このうち、2Eと、モル比が30:1~3:1の範囲内(18:1~4:1)である2A~2D、2F~2Kとの各結果を比較すると、凍結/解凍のサイクルが1回の場合には、、2F(ゲナポール0-050、モル比8:1)及び2D(ドバノール45-18、モル比16:1)の2例が2Eよりも残留%が多く、また、凍結/解凍のサイクルが3回の場合には、前示2Dが2Eと残留%が同一、2I(ノニルフェノール20EO、モル比17:1)及び2G(ゲナポール0-200、モル比18:1)の2例が2Eよりも残留%が多いという結果が示されている。
実施例3は、陽イオン型布地柔軟剤(アルクワッド2HT、すなわち二硬化タロージメチルアンモニウムクロライド)及び脂肪酸(ブリステレン4916)に、各種非イオン型表面活性剤を加えた組成物28例(3A~3BB)を対象として、凍結/解凍のサイクルが1回の場合につきキャップ:ディスペンサ試験を実施して、その残留%を比較したものであり、3A(エトカス35、モル比39:1)、3E(エトカス35、モル比2.6:1)、3F(エトカス35、モル比1.95:1)、3I(APG300、モル比2.5:1)、3J(APG300、モル比1.2:1)、3K(APG300、モル比0.83:1)、3L(APG300、モル比0.62:1)、3P(ドバノール45-18、モル比2.1:1)、3Q(ドバノール45-18、モル比1.1:1)、3U(ゲナポール O-200、モル比1.8:1)、3V(ゲナポール O-200、モル比1.2:1)及び3BB(ノニデットLE6T、モル比2.7:1)の12例が、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の数値限定の範囲外であるところ、これらの例と、該モル比が30:1~3:1の数値限定の範囲内(27:1~3.2:1)である3B~3C、3G~3H、3M~3O、3R~3T、3W~3AAの各結果を比較すると、モル比が30:1~3:1の数値限定の範囲外である例のうち、3U、3F、3E、3P、3K、3J、3Iの7例に係る残留%が9~40の範囲にあり、他方、該モル比が30:1~3:1の数値限定の範囲内にありながら、残留%がこれより多い例は3B、3X、3H、3R、3C、3G、3M、3Wの8例あって、さらに、このうち3W(ノニデットLE6T、モル比27:1)は残留%が100であることが示されている。
したがって、実施例2、3には、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の数値限定の範囲外にある組成物のうち、相当程度の割合のものが、その範囲内にある組成物よりも物理的安定性を有していること、反面、該数値限定の範囲内にありながら、物理的安定性に乏しいものもあることが示されているということができる。
そうすると、本願明細書には、物理的安定性という効果に関して、本願発明の数値限定の上下限値である陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比30:1と3:1とが臨界的意義を有することが記載されているものとは到底認めることができない。
また、他に、該各モル比が物理的安定性という効果に関して臨界的意義を有するものであることを認めるに足りる証拠もないから、結局、本願発明が引用例に示されていない顕著な効果を奏するということはできず、したがって、これに進歩性を認めることもできないというべきである。
(3) 以上いずれの理由からしても、本願発明が引用例発明に対して選択発明として進歩性があるものと認めることはできないから、審決が、これを認めなかったことは正当であり、原告の取消事由2の主張は採用できない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成2年審判第18688号
審決
オランダ国、ロツテルダム、バージミースターズ・ヤコブプレーン・1
請求人 ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ
東京都新宿区新宿1丁目1番14号 山田ビル 川口国際特許事務所
代理人弁理士 川口義雄
東京都新宿区新宿1-1-14 山田ビル 川口國際特許事務所
代理人弁理士 中村至
東京都新宿区新宿1-1-14 山田ビル 川口国際特許事務所
代理人弁理士 船山武
昭和63年 特許願第44066号「布地柔軟化組成物」拒絶査定に対する審判事件(昭和63年11月18日出願公開、特開昭63-282373)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
本願は、昭和63年2月26日(優先権主張1987年2月27日、イギリス国)の出願であって、その発明の要旨は、平成2年11月19日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その請求項1~7に記載されたとおりの「
(1)
(ⅰ)水性ベースと、
(ⅱ)8重量%以下の水不溶性の陽イオン型布地柔軟剤と、
(ⅲ)少なくとも0.2重量%のC8~C24脂肪酸と、
(ⅳ)非イオン型表面活性剤と、
からなり、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲であることを特徴とする液体布地柔軟化組成物。
(2)非イオン型表面活性剤が、
(ⅰ)脂肪族アルコールとアルキルフェノールとのアルキレンオキシド付加物、
(ⅱ)アミンオキシド、
(ⅲ)アルキルポリグリコシド、
(ⅳ)エトキシル化ヒマシ油、
(ⅴ)ソルビタンエステルおよびそのエトキシル化誘導体、並びに
(ⅵ)前記物質の混合物、
よりなる群から選択される請求項1記載の液体布地柔軟化組成物。
(3)非イオン型表面活性剤が、
(ⅰ)ジメチルココアミンオキシド、
(ⅱ)1分子当り平均20個のエチレンオキシド基でエトキシル化されたノニルフェノール、
(ⅲ)1分子当り平均20個のエチレンオキシド基でエトキシル化されたポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、
(ⅳ)1分子当り平均20個のエチレンオキシド基でエトキシル化されたポリエチレンソルビタンモノラウレートとソルビタンモノラウレートとの重量比50/50の重量比における混合物、
(ⅴ)9~11個の炭素原子を有しかつ1分子当り平均6個のエチレンオキシド基でエトキシル化された分枝鎖の一級アルコール、
(ⅵ)12~14個の炭素原子を有しかつ1分子当り平均4、7、11、13もしくは23個のエチレンオキシド基でエトキシル化された直鎖の一級アルコール、および
(ⅶ)13~15個の炭素原子を有しかつ1分子当り平均7、8もしくは11個のエチレンオキシド基でエトキシル化された分枝鎖の一級アルコール、
よりなる群から選択される請求項2記載の液体布地柔軟化組成物。
(4)非イオン型表面活性剤の量が0.1~4.5重量%である請求項1記載の液体布地柔軟化組成物。
(5)陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が18:1~3:1の範囲である請求項1記載の液体布地柔軟化組成物。
(6)陽イオン型布地柔軟剤と脂肪酸とのモル比が少なくとも1:1である請求項1記載の液体布地柔軟化組成物。
(7)少なくとも1%の陽イオン型布地柔軟剤と8%未満の脂肪酸とを含む請求項1記載の液体布地柔軟化組成物。」
にあるものと認める。
これに対し、原査定の拒絶理由に引用した米国特許第4308024号明細書(1981年12月29日発行、以下引用例という)には、相対的に水不溶性であり2つのC12-C22のアルキル又はアルケニル基を持つカチオン洗浄界面活性剤を20~95モル%と、遊離のC8-C24のアルキル又はアルケニルモノカルボン酸5~80モル%を含有する水性の液体から本質的になり、該カチオン洗浄界面活性剤と該アルキル又はアルケニルモノカルボン酸の合計した量は水性の液体の2~20重量%であり、pHが5以下の布柔軟化剤が実施例とともに記載され、
ここで、発明の組成物は、このような組成物に通常用いられる普通の補助剤をさらに含んでよく、例として5%までの小量で、高級アルコールや脂肪酸のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド縮合物、グリセリンモノステアリン酸エステルなどの脂肪酸とポリオールとのエステル、ソルビタンエステルのエトキシル化物のような非イオン界面活性剤があることなどが示されている。
そして、本願発明は各請求項に係る発明7よりなるものであるが、請求項2~7に係る発明は引用形式で記載され、引用される請求項の技術的事項を限定し具体化するものであるから、まず、本願の請求項1に係る発明と引用例記載の発明とを対比する。
引用例において、
カチオン洗浄界面活性剤は、引用例の第2欄第1~16行に記載されるその例示よれば、本願の陽イオン型布地柔軟剤と同じであり、
遊離のC8-C24のアルキル又はアルケニルモノカルボン酸は、本願の脂肪酸と同じであり、(単に、脂肪酸といった場合、通常は遊離のものを意味する。)
非イオン界面活性剤も、本願の非イオン表面活性剤と同じである。
そして、引用例に記載される実施例を見ると、水性ベースに、カチオン洗浄界面活性剤を8重量%以下、遊離のC8-C24のアルキル又はアルケニルモノカルボン酸を0.2重量%以上含有させた布柔軟化剤が示されていること、及び、本願の実施例3の記載を見ると、本願の非イオン表面活性剤の使用量は、多くの非イオン界面活性剤の場合、5重量%までの範囲で用いるものであることから、引用例の組成物を構成する成分の組成比においても、本願の請求項1に係る発明の組成物と同じである。
そうすると、両者は、
(ⅰ)水性ベースと、
(ⅱ)8重量%以下の水不溶性の陽イオン型布地柔軟剤と、
(ⅲ)少なくとも0.2重量%のC8~C24脂肪酸と、
(ⅳ)非イオン型表面活性剤と、
からなり、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲である液体布地柔軟化組成物であるという点で一致し、
ただ、引用例において、非イオン型表面活性剤を用いた具体的な例が記載されていない。
この点について、請求人は、陽イオン型布地柔軟剤と非イオン型表面活性剤とのモル比が30:1~3:1の範囲であることにより冷凍/解凍サイクル後での物理的安定性を得ることができるという、いわゆる選択発明的な効果があることを主張しているので、この点について検討する。
本願明細書には、該効果を具体的に根拠づける実施例が記載されているが、たとえば、実施例2として記載される、数種の非イオン型表面活性剤を用いた例2A~2Kにおいては、本願の範囲にはいる2Dと2Fの例の1回の冷凍/解凍サイクル後での物理的安定性は、非イオン型表面活性剤を用いない例2Lよりも劣っているのを見るごとく、非イオン型表面活性剤の種類によっては、請求人の主張する効果がない場合もあり、
そうすると、本願の請求項1に係る発明の構成を採っても、必ず選択発明的な効果があるものでないので、請求人の主張する効果は、本願の請求項1に係る発明固有のものではないことになる。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
そうすると、本願の請求項2~7に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年3月22日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。